空を見上げて、あ、と声をあげたら、お兄ちゃんはきっとふりむいて、なんだよピリカ、って訊いてくれるだろうとおもってた。まったくそのとおりだった。嬉しくてつい、にへらっと締まりのない笑い方をしてしまう。

「お兄ちゃんの色」
「おまえもだろ」

兄としての責任を感じているのだろうか、それとも兄や姉になればおのずと変わるのだろうか、彼はときどき私の前でだけ少し大人びた笑い方をする。わらって、私のどんなにちいさな声も拾いあげてくれるのだ。
秋晴れの、淡く透きとおるような青空の下、お兄ちゃんと二人で歩く都会は想像以上に近代的で、作り物めいていて、便利で、かなしくて、でもさみしくはない。私と同じ色の髪と瞳がいつもすぐ傍で明るさをくれるから。

「にしても、東京の空はせまいよなー。ここに住んでるやつらに北海道の空を見せてやりたいぜ」
「だよねぇ」

いつかこの、見渡す限りの空の下に、うつくしい緑がどこまでも広がることを夢見て、私たちはふるさとを発った。そして近い未来、お兄ちゃんはもっとずっと遠くへ行ってしまう。私をここに一人残して。

おにいちゃん、声が震えないように気をつけながら彼を呼ぶ。

「ぜったいぜったいぜーったい!シャーマンキングになってよね」
「ったりめーだろ!」

待ってろよピリカ!、そういって、ときびりの笑顔を私にくれた。待ってるよ、ずっと。信じて待ってる。
願わくば、あなたの夢が終わる頃、一番傍で笑う女の子は私でありますように。彼女募集中のお兄ちゃんには内緒の願い。ホテルに戻ったら、イクパスイを彫りあげよう。私たちの大きな夢とささやかな願いが揃って叶うようこころをこめて。私の一番大切なひとに、誇り高きアイヌの神の祝福を。




(2008/09/18)
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