まだ起きたくないよ。現実と夢の間を行ったり来たりしていたら、シャワーを終えたカナちゃんとぼんやり目があった。髪から雫がぽたぽた垂れている。
「起きな。」
黒のタンクトップと太股が露わになる短いジーパン(チャックをきちんと閉めていないので黒のパンツが見えてるよー)姿のカナちゃんは、ライターで煙草に火を点けている。カナちゃんの後ろにある時計が11時を指していた。
「眠い・・・・」
「ハオさまに18時までに終わらせろって言われてるんだから。」
「んー」
私はのそのそと起きあがる。
「寒い・・・」
朝の空気はいつだって冷たい。
「アンタもシャワー浴びてきな。」
リンスとかまだ中にあるからとカナちゃんは私にタオルと着替えを渡してきた。そう言えば昨日お風呂に入らないまま寝ちゃったんだっけ。ベッドから降りて床に足をつけると冷たくて、意思が挫けそうになった。寒い。
シャワー室から出ると、マリちゃんが起きたところで、虚ろな瞳でベッドの上にぺたんと座っている。そんなマリちゃんの髪が乱れていたので解いてあげようと思ったけど、失敗しちゃったからカナちゃんを呼んだ。
「ごっめーん。」
2人に謝ると、カナちゃんはため息をついただけだった。一方マリちゃんは気にしていないみたいでテレビをぼーっと見ている。私はその横へ寝ころぶ。ふかふかのベッド。暖かい部屋。清潔なバスルーム。やがて運ばれてくる安全で美味しい朝ご飯。マリちゃんのぼーっとした横顔。カナちゃんのお姉さんのように髪を解く指先。安らげるこの雰囲気。これらをすべてくれたのはハオさまだった。もし前の生活へ戻れと言われたら、私たちは素早く舌を噛みきるに違いない。すべてはハオさまのおかげ!ハオさまのおかげ!もしハオさながいなかったらハオさまと出会わなかったら、この生活はなかった。居場所の無い生活から永遠に抜け出せなかった。
「ハオさまのためにも今日のお仕事頑張らなきゃ!」
髪を結われたマリちゃんが静かに頷いた。私たち3人の気持ちは同じだ。私たちにすべてをくれたあの人の、ユートピアを作ること。それがハオさまの幸せ、私たちの幸せ。それにハオさまの理想の世界はまさに私たちの理想ぴったりだし!ハオさまの言う世界を想像するとうっとりしてきて、わくわくする。ジャックもベッドの下で踊っている。
「張り切りすぎてもねぇ。どうせ今回も雑魚っばっかよ。」
カナちゃんが前髪をかき揚げる。セクシー。私もいつかああなりたい。なんて未来を夢見れるのもハオさまのおかげ。
「お腹空いた。カナ何か作って。」
「もう直ぐボーイが運んでくるわ。」
マリちゃんがそう言ったので私もなんだかお腹が空いてきた。それからお腹がくぅと鳴ったのと同時に、朝ご飯を運んできたボーイのノックが部屋に木霊した。カナちゃんが気だるく煙を吐き出しながらドアを開ける。朝食を載せたトレーがお兄さんにテーブルへ移されて行く。それを横から摘んで食べていると、マリちゃんにマッチ意地汚いと言われた。
重すぎた愛にいつか潰れる
20090403/重過ぎた愛にいつか潰れる/シアンの空想さまへ